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東京高等裁判所 昭和39年(ラ)11号 決定 1964年3月19日

再抗告人 日光不動産有限会社

相手方 有限会社高梨商店

主文

原決定中相手方高橋尚一郎に関する部分を取消す。

抗告人と相手方高橋尚一郎間の浦和簡易裁判所昭和三十八年(ハ)第四八号所有権移転登記手続請求事件につき、同裁判所が同年十月一日になした移送決定を取り消す。

相手方会社に対する本件再抗告を棄却する。

再抗告費用はこれを二分し、その一宛を抗告人と相手方高橋尚一郎の負担とする。

理由

抗告代理人は「原決定を取消す。本件を浦和地方裁判所に差戻す」との裁判を求め、その理由として別紙抗告理由書記載のとおり主張した。

本件記録添付の浦和簡易裁判所昭和三十八年(ハ)第四八号土地所有権移転登記抹消登記手続及び土地引渡等請求事件記録によれば、抗告人は相手方両名を被告として相手方高橋の普通裁判籍所在地である浦和簡易裁判所に対し、上記訴訟を提起したものであるが、相手方会社の営業所は栃木県日光市に在つて、右訴訟の目的である不動産の所在地も同市であること、抗告人申請の証人鷺橋元一及び相手方申請の同会社代表者本人の各住所もいずれも宇都宮市に在ることが、それぞれ認められる。従つて相手方会社及び右証人並らびに本人にとつては、同事件は浦和簡易裁判所で審理を受けるよりも、宇都宮簡易裁判所で審理を受けることが、いろいろの点において、時間的にも経済的にも便利であり、ひいては訴訟の遅滞を避けることができるものと認められる。従つて、相手方会社に関するかぎりでは、右は民事訴訟法第三十一条所定の事由ある場合に該当するものと認められるから、浦和簡易裁判所が相手方会社の申立に基いて、抗告人と同相手方の事件を宇都宮簡易裁判所に移送する旨の決定をなしたのは相当であり、右移送の決定を相当として抗告人の抗告を棄却した原決定は必しも抗告人主張のように架空に亘り抽象的なものであるとは云えない。従つて、相手方会社に対する本件再抗告はその理由がない。

しかしながら、相手方高橋の住所が浦和市に在ることは前段判示のとおりであり、前掲記録によるも、同相手方に対する事件を浦和簡易裁判所で審理することが同相手方のため、著しき損害又は訴訟の遅滞を生ずるものと認むべき事由はなにも存在しないし、同相手方は移送の申立をなしていない。しかも、相手方高橋は浦和簡易裁判所の第一、二回口頭弁論期日に出頭していないし、答弁書等の提出もしていないことが認められるのであるから、同相手方に対する事件は分離して審理すれば足り、そうすることが、かえつて訴訟の遅滞を避けることになるものと考えられる。従つて、同簡易裁判所が、相手方高橋に対する事件を宇都宮簡易裁判所に移送する旨の決定をなしたのは違法であり、抗告人の抗告を棄却した原決定は相当でなく、この点に関する本件再抗告は理由があるから、原決定中相手方高橋に関する部分は取消を免れない。

よつて、原決定中相手方高橋に関する部分を取り消し、抗告人と相手方高橋間の浦和簡易裁判所昭和三十八年(ハ)第四八号所有権移転登記請求事件について同裁判所が同年十月一日になした移送決定を取消し、相手方会社に対する本件再抗告はこれを棄却することとし、なお再抗告費用の負担を主文第四項掲記のように定めて主文のとおり決定する。

(裁判官 村松俊夫 伊藤顕信 杉山孝)

別紙 抗告理由書

(一) 抗告人(原告)及相手方等(被告)間の浦和簡易裁判所昭和三十八年(ハ)第四八号土地所有権移転登記抹消登記手続及土地引渡等事件が同裁判所に繋属していたところ、相手方高梨商店より事件移送の申立があり、同裁判所は昭和三十八年十月一日事件を宇都宮簡易裁判所に移送する旨の決定をなしたので、抗告人は原審裁判所に対し抗告をなしたのである。

(二) 右第一次抗告の理由は民訴第三一条定めるところの移送の要件である著しき損害を避けるためと著しき遅延を避けるための二個の要件を欠缺していることを主旨とし殊に事実の認定において架空の事実に基き又事案を抽象化し訴訟追行上の複雑性を強調して強いて移送の必要性を構成せしめていることを主張したのである。

(三) しかるに原審も本件は民訴第三一条の移送の要件を充足するものとなすのであるが、その理由は事実の認定に当り架空に亘るもの抽象化と思われるもの多く従つて論理に矛盾あり理由齟齬となり、条理に反することにより法令違背を来たしているのである。例えば原審は(イ)被告会社の本店の所在地会社代表者の居住地はいずれも日光市にある………本件訴訟事件を原審において審理することによる被告会社の蒙る時間的、経済的損害は被告高橋の宇都宮簡易裁判所において審理することにより蒙るものに比して著しく大なるものといわなければならないとしている。しかし本店の所在地如何は本件判断に自から関係ないのに殊更に附加増強している。又日光市と宇都宮市間の所要時間その交通費並浦和市と宇都宮市間の所要時間その交通費とは双方共に殆んど等しく時間約一時間半金額約百五十円である決して著しく相違するものでないことは国鉄用時間表により明瞭である。(ロ)又原告が宇都宮簡易裁判所において審理することにより損害を蒙るものと考える資料は全く存しないとしている。しかし原告は今市市に居住するので浦和簡裁に出頭するのを止めて宇都宮簡裁に出頭する場合には損害は生じないが、原告代理人は事務所が東京都港区であることは記録上明かであつて宇都宮簡裁に出頭する場合は浦和簡裁に出頭することに比し損害は大きいのである。(ハ)又本件訴訟と同一物件を目的とする訴訟がかつて宇都宮簡裁に係属しその訴訟は事案複雑のため多数の証人の取調並検証がなされた従つて本件訴訟事件においては前記証人及原被告会社の代表者の取調のみで終了するものとは考えられないとしている。しかしこの事件進行の見通しの判断は明かに誤つている。それは本件訴訟は記録上明かなように書証の提出を終わり人証としては証人一人と本人尋問の申出でによつて他に主張立証はなき状態にあるのである。(ニ)又前述に続き今後の推移によつて更に被告側より宇都宮簡裁管内に住所を有する多数証人の尋問並に検証の申出があることも当然予想されるところであるとしている。しかしそのような判断は早計に失し誤りであると考えるが仮りにそのように証拠の申出が複雑になつたその場合において移送の点が検討されてしかるべきである。(ホ)又前述に続き浦和簡裁においてそのまま審理を継続するときは証拠調の嘱託又は出張の方法に依存することになり、相当の費用を要し著しく訴訟の遅延を来たすおそれがあるものとすとしている。しかしこの断定は前述のごとく架空の事実資料に基くもので失当という外はない

(四)以上の次第であつで原審は条理に反する法令の違背を犯しているものでその結果は原決定は取消さるべきことに至ることは明白であるので、決定に影響を及ぼすべき法令違背あるものとして民訴第四一三条により本件再抗告に及ぶものであります。

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